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「新しいウイルス入門」読了 [読書]

武村政春著、ブルーバックス。
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けっこう面白かった。

バクテリアほどの大きさのウィルスが見つかった話がまず最初に出てくる。ツカミにしてはちょっと難しい。普通のウィルスがバクテリアよりもずっと小さい、ということは説明されるんだけど、そのことをあらかじめを知らないとツカミにはなりにくい。

そういったスベリがここかしこに見られる。ときどき挟まれるギャグと思われるフレーズも必ずスベりまくる。著者はストーリテリングの技術はあまり高くない、ということが言える。しかし、そんなことはどうでもいい。

スベったツカミのあとは、ウィルスの形態と構造、生活環を説明したあと、それがなぜ病気をもたらすのかという説明が続く。そこで前半が終わる。

後半は、ウィルスが宿主のDNAを組み替えることによる進化の加速(突然変異)、ウィルスの進化的起源が語られて、そのあと真核生物の核の形成がウィルスによるのではないかという仮説が語られる。これは著者の研究者としての貢献らしく、先取権争いの生々しい話がある。最後に「結局、ウィルスとは何なのか」で終わる。後半の、特に真核生物の核形成の話は面白くてあっという間に読んでしまった。

思った通り「ウイルスは生物か否か」という話が最初にでてくる。それに関してはこの著者は「定義からすると生物ではない、けどそれにしては同じところが多いよね」という感じで、気持ちの上では生物に含めたい、という思いがなんとなく伝わってくる。この感覚は面白い。

僕は以前も書いたけど「ウィルスが生物かどうか」という問いは意味がないと思っている。つまり、生物と無生物の境界ははっきりしたものではないと思ってるので、僕は著者の気持ちは共感できる。

「ウィルス」といって十把一絡げにするけど、実は非常に多様だということが語られる。そうだとすると、生物種ごとにそれに寄生するウィルスが、それぞれに数種類存在してもおかしくないぐらいで、もしそうならウィルスは数百万種以上いる、ということになる。そう言う指摘はこの本には出てこなかったけど、話の筋道から言えばそうなるんではないか。面白い。

この本のクライマックスは、真核生物の核とは原核生物がウィルスに感染して共生した結果ではないか、という部分。大きなウィルスでは宿主細胞の中に細胞膜と同じ脂質二重膜でさらに内部を囲って、その中で増殖するものがいるらしくて、この細胞内細胞のようなものをこの本では「ウイルス工場」と呼んでいるが、これが細胞の核になったのではないか、という。

その傍証のひとつとして真核生物のDNAポリメラーゼの2種類あるうちの片方がポックスウィルスという大型ウィルスの持っているものと近親である、ということをあげている。つまりそのDNAポリメラーゼはウィルス起源である、というのである。強力な説得力がある、とは言いがたいけど、素人から見ると非常に面白い。でも「ウイルス工場」が核の起源なら、なぜ核ではタンパク質合成が行われなくなったか、ということを説明できないといけないと思うんだけど。

「エピローグ」ではウィルスって結局なんなのよ、という話が語られる。普段病原体と認識している「ウィルス粒子」の状態が本来の姿ではなくて、あれはちょうど生殖細胞のようなもので、宿主細胞の中にいる状態が本来の姿なのではないか、といった話や、「カプシドがあるけどリボゾームのない"生物"(つまりはウィルス)」と「カプシドがないけどリボゾームのある生物(これは普通の原核生物と真核生物)」のふたつにまず分ける、という分類の話がある。僕はこの「まずふたつに分類」というのは面白いと思う。これに従うとウィルスはやはり一種の生物、ということになる。

さっきも書いたけど、ウィルスが生物か無生物か、なんていう議論は不毛だと思うし、そもそも生物と無生物を厳格に区別する基準なんてなくて、多分に恣意的なものだ、と思っている。どうも生物無生物という議論は、大袈裟に言えば結局は、人間至上主義みたいなところにたどり着くような気がして、僕は気に入らない。少なくともウィルスだって、借り物を使ってではあるけど生活して増えて進化してるのは間違いないので、生物の仲間と考えたほうがずっとわかりやすい、と思うんだけど。



ところで「原核生物」といういいかたはされなくなったのね。「真性細菌」と「古細菌」と「真核生物」のみっつなのね。気をつけよう。
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